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植物分子生理学グループの研究内容です

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植物分子生理学グループ
Group of Plant Molecular Physiology

研究内容 (Research)SERVICE&PRODUCTS

佐々木孝行の研究テーマ


「植物におけるアルミニウム毒性と耐性機構の解析」
 特に アルミニウム耐性遺伝子:ALMT輸送体,およびALMTファミリーの解析

次に,アルミニウム耐性遺伝子:ALMT1の研究内容をご紹介いたします.


詳しい内容 3「アルミニウム耐性遺伝子を研究する!」

私たちは,コムギのアルミニウム耐性に着目して,Al耐性遺伝子の探索を始めました.
研究に用いたコムギは,根端からリンゴ酸を放出することでAl耐性を獲得しています.
また,品種間でリンゴ酸の放出量が異なり,それによりAl耐性度が異なることも明らかになっていました.

私たちはAl耐性遺伝子を発見するために,準同質遺伝子コムギ系統のET8とES8を使用しました(下写真・左).
これらは,Al耐性系統(Carazinho)を供与親とし,感受性系統(Egret)を反復親として,8回の戻し交雑を行って作出されたものです(Delhaize et al. Plant Physiol. 1993, 103 685-693).

このように簡単に説明してますが,8回交雑を行うということは単純に8年間かけてつくりだされたコムギ系統ということです.彼らの努力には感服いたします...
そしてこのET8, ES8なくしてALMT1遺伝子の発見はなかった!と言っても過言ではないでしょう.

左がES8,右がET8の圃場での生育です.
遺伝的背景が同じなので見た目にはほとんど区別がつきません.


さて,私たちはこのET8とES8の間で,根で発現している遺伝子を比較しました.
このときには,サブトラクション法という方法で,目的の遺伝子の探索を行いました.
(今だったら次世代シークエンスによるRNA-seq解析を行っていたことでしょう.)

その結果,ET8の根端で特異的に高く発現している遺伝子の単離に成功しました(Sasaki et al. Plant J. 2004, 37, 645-653).

これが「元祖」ALMT1(Aluminum-activated malate transporter 1)です.
現在は,他の植物のALMTタンパク質と区別するために,コムギの学名Triticum aestivumの略称と付けて「TaALMT1」とも呼ばれています(個人的にはThe ALMT1と書き続けたいのですが...).

この論文(Sasaki et al. 2004)では,アフリカツメガエル卵母細胞を用いた二電極膜電位固定法や,形質転換植物など,さまざまな手法を用いて,ALMT1がAlで活性化されるリンゴ酸トランスポーター(注1)であることを証明しました.
そして,タバコ培養細胞を用いた系により,これがAl耐性に関わる遺伝子であることも証明しました.

(注1)現在,ALMT1はチャネル "channel"と考えられています.チャネルとトランスポーターは,イオンなどの輸送の機能に違いがあります.ではなぜ,トランスポーター "transporter" と呼ぶことになったのか. それは,「いろいろな事情」があったからです.


ALMT1遺伝子は,Al耐性系統の根端において常に発現しています.つまりALMT1タンパク質は常に根端に在るのです.
しかし,中性付近の土壌で,Al3+になっていないときにはリンゴ酸の輸送は活性化されません.
酸性土壌でAl3+が溶け出してくると,はじめて活性化されてリンゴ酸を根圏に放出するのです.
コムギは,なんとも効率的なAl耐性メカニズムをもっているものだ,と関心してしまいました。


ALMT1の発見以前にも,Alに応答して耐性に関与する(のではないか)という遺伝子は,いくつか報告されていました.

私たちの研究,リンゴ酸放出という生理的にAl耐性との関わりが解っている,その原因遺伝子の発見というのは「Al耐性メカニズムを遺伝子レベルで解明した」という意味でも,初めてであったと思います.

    


現在は,もう一つのAl耐性遺伝子として,クエン酸の輸送体がオオムギやソルガムなどから見つかっています。
これは,MATE (multidrug and toxic compound extrusion) と呼ばれるタイプの輸送体ファミリーが,Alで活性化されるクエン酸輸送を行うことが報告されています.

また,イネは非常に酸性土壌に強いのですが,コムギやオオムギらとはまた異なるAl耐性機構があることも解っています.
これらもまた,Al耐性遺伝子として近年注目されているものだと思います.

これらは,他の研究者の方がやっているので,それらの論文・総説をお読みください.


私たちは,ALMT1の発見を報告した同年に,ALMT1遺伝子をAl感受性のオオムギに発現させることで,Al耐性・酸性土壌耐性を付与できることも報告しました(Delhaize et al. PNAS 2004, 42, 15249-15254. ).
他にも,Al感受性のオオムギやコムギに発現させて,作物生産性が上がったという論文も発表されています(Delhaize et al. Plant Biotech. 2009, 7,391-400. Pereira et al. Annal. Bot. 2010, 106, 205-214.)).
すなわち,植物がもつ遺伝子によって酸性土壌耐性作物をつくりだせる可能性がでてきたわけです.



さて,コムギのALMT1遺伝子発現の量がAl耐性に重要なことは解っていただけましたでしょうか?
では,このALMT1遺伝子の発現量はコムギの根端でどのように制御されているのでしょう?

そこで私たちは,Al耐性度の異なる品種間で,ALMT1上流配列を比較してみました.
遺伝子の上流には「プロモーター」と呼ばれる,遺伝子発現を制御する領域が存在します.

私たちの解析により,コムギのTaALMT1遺伝子の上流には重複する配列領域があり,その重複数がAl耐性を制御する,ということでした(Sasaki et al. 2006).下の図はそのイメージです.
関連する論文もオーストラリアの共同研究者と論文になってます (Raman et al. 2008, Ryan et al. 2010).




そのほかにも私たちは,細胞膜局在や膜配向性(Yamaguchi et al. 2005, Motoda et al. 2007),コムギの主要なAl耐性遺伝子であり,4DL染色体に座上すること(Raman et al. 2005)を明らかにしてます.
ちなみに,コムギ(ここではパンコムギのことを言います)は,6倍体で A, B, Dゲノムが7つずつあります.
4DLというのは,下の図のように,Dゲノムの4番目,長腕(Long arm)にある,という事を意味します.




また,Al活性化機構やリンゴ酸を含むアニオン輸送体としての機能特性を電気生理学的に研究を行ってきました(Furuichi et al. 2010, Sasaki et al. 2014, Zhang et al. 2008).

Furuichi et al. (2010)では,アフリカツメガエル卵母細胞を用いた電気生理学的解析によって,TaALMT1タンパク質の C-末端にある比較的長い親水性ペプチド領域の3箇所の酸性アミノ酸{アスパラギン酸とグルタミン酸(E274, D275, E284)}がAl活性化に必要であることを明らかにしました.さらに,TaALMT1のC末端領域の欠失や,シロイヌナズナの相同タンパク質 AtALMT1のC末端領域と入れ換えたキメラタンパク質の解析から,C末端領域がリンゴ酸輸送能の調節に重要であることを明らかにしました.
Sasaki et al. (2014)では,同様に電気生理学的手法を用いて,ALMT1タンパク質のへリックス構造に着目し,N末端とC末端それぞれに,Al活性化に重要な機能ドメインが存在することを明らかにしました.

これらの結 果は,ALMT1の機能を強化する応用研究につながり,将来的にさらに強い酸性土壌耐性を作物に付与できると考えています.

ALMTの研究結果については,またアップしたいと思います。。。

注)文章中で、論文の雑誌名・巻・ページとかが省略されたものについては「研究業績・Publication」をごらんください。


次に,ALMT遺伝子の多様性について解説いたします.


つぎのページでは,「ALMTファミリー遺伝子の役割は?」を紹介します.



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